はじめに

私は常に日本人は日本の国土から生れた木材や建築素材で日本の風土に合う木組や土壁の伝統構法で造った木造の家屋が、住むのに一番適していると考えています。また、近い将来必ず発生すると言われている東南海地震を考え、地震が起っても倒壊しない家を建てるために研究した構法である「石場建足固め構法」が私に与えられた使命であると考えております。

耐震性の強化から金物の使用が多くなり、日本伝統の木組みも簡略化し、本来の木が持つ柔軟性、復元性が殺されており、壁に至っては伝統の竹小舞を編んで土を塗り重ねる工法は戦後しばらく続けられていましたが、四十数年前にほとんど消えてしまっているのが現状です。合板、新建材の出現で手間もかけず、工期も早く、費用も安く済む利点があるのですが、はたしてその工法が最良と言えるのでしょうか。もはや、鉋やノミを使いこなす大工や土壁左官も激減している事実もあり、これは日本の伝統建築に携わるすべての職人に言えることで、このままでは造る人も居なくなってしまうかもしれません。これは日本の伝統構法が継続されず消えてしまう危機をはらんでおります。

日本人は一生のうち、二度も家を建てなくてはならない脆弱な日本の住宅建築の現実を見ても地球環境においても、国産資源の正しい活用を計るため、私は天然の素材を吟味して伝統の木組み構法や土壁工法を後の人に伝えてゆく決心で出来うる限り施主さんに理解していただき、時間をかけて家造りに励んでおります。

世界に誇れる日本の伝統建築構法の復活を基本の理念として、これからも「日本の家」を広めていきたいと思っております。

このたび機会があり私の考えている家造りをまとめることになりました。ご一読いただけますれば幸甚に存じます。

尚、登場する人名は架空の人物で実在いたしませんことをおことわりいたします。

藤本 淳三